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としまアートステーションYシンポジウムレポート

 

日本のオルタナティブスペースの先駆け、Art Center Ongoingの事例:小川希さん

石幡:ありがとうございます。では続きまして小川さんにバトンを渡したいと思います。

小川:Art Center Ongoingの小川ともうします。僕は吉祥寺で「Art Center Ongoing」というHAGISOより小さいスペースをやっています。ちょうどあと1日(注:イベント開催は2015年1月25日)で7周年になります。2008年の1月26日にオープンしました。

ここをつくるきっかけは、僕は以前に東京の美術大学に通っていて、アーティストたちのネットワークをもとに展覧会を企画していました。けれども、大学を出た後にアーティストたちが散り散りになるのに危機感を覚えまして。どこか場所を設けてアートを常に考えられるような場所をつくりたいという思いがありました。

そのモチベーションは、学生時代にヨーロッパをバックパックの貧乏旅行でまわっていたときに、小さなまちにもアートセンターと呼ばれるものがたくさんあったんです。「アートセンター」という単語自体、当時の僕ら学生たちにはあまり馴染みがなかったんですけれど、その施設ではギャラリーやカフェがあって、週末になるとワークショップや上映会やライブをやりながら、地域のお年寄りから若者までが夜になると集まり、ビールを飲みながらアート談義をする若者の横でおじいちゃんおばあちゃんがコーヒーを飲み、そこでやっていることやアートはどうだよねって話を若者とおじいちゃんたちが普通に話している風景があって、これってすごく豊かな体験だなと思ったんです。

なんで「アートセンター」が日本にはないんだろうという疑問がすごくあって、こういうのがあれば毎日自分は行っちゃうのにと思い、それでアートセンターをつくることを目標にしたんです。それで実際に活動をし始めたのがちょうど7年前になります。

今思えば、おそらくヨーロッパ各地にあるってことは行政のお金も入っていて、日本で言うところのコミュセン(注:コミュニティセンター)みたいな感じでアートセンターがあったんだと思います。僕は行政の中に入ってどうこうするより、本当にプライベートな場所で完全に自分が責任を負っておもしろい場所としてやっていきたいという想いがあったので、Art Center Ongoingをつくりました。

Art Center Ongoingは、モルタル2階建て35平米ぐらいのものすごい小さな場所です。6畳2間くらいの建物の2階建てで、1階をカフェ2階をギャラリーにしています。宮崎さんと同じように1階のカフェの売り上げで運営していて、2階のギャラリーは全部僕が選んだおもしろい作家たちに自由にやらせるというスペースで、2週間おきに展示が変わる展示場所です。

おそらく、世界中を探してみても完全なプライベートな場所でしかもコマーシャルでも貸しギャラリーでもなく、実験的なものを2週間ごとにやる場所はないと思います。それはなぜかというと、単純につぶれてしまうからっていうのもあって、2週間おきにどんどん作家を替えていかないと来るお客さんも変わらないんですよ。はじめは1ヶ月周期でやっていたんですけど3ヶ月くらいでつぶれそうになったので周期を2週間にして、それから気づいたら7年に入ってしまいました。

基本的には実験的な作家たちを念頭においてやっている場所です。現代アートと言うと日本の中ではあまり浸透していないので、週末にトークショーやゲストを呼んだイベントをよく企画しています。作家と一緒に内容について話をしながらどういうゲストを呼んだらいいかとか、どういうイベントをやったらいいかなみたいなことを詰めています。ゲストもAV監督のカンパニー松尾さんから政治家の菅直人さんといった方々とか、映画監督や小説家、詩人、社会学者、哲学者などなど。基本的にはお金はまったくないんですけど、こういう場所が東京にあることの意義や重要性みたいなことをきちんと手紙を書いてご連絡すると、みんな車代くらいで来ていただいています。いろんな他ジャンルの人たちが来ることで、アート以外のジャンルに興味がある一般の人たちを招き入れて、そこで話が広がっていくことを目的としています。

僕はアートのクオリティをものすごく大切にしているのでいいものをやることを念頭におきながら続けていて、おかげで奇跡的になんとかやっていけています。僕のとこも助成金などは受けておらず、完全に個人経営でやっています。普通は2、3年もてばいいほうで、それが7年間続いているのは、アーティストたちがここをつぶしてはいけないという意思や、ここがつぶれちゃうと自分たちの発表する機会がなくなるという強い想いが、ここを支えてくれているからこそ続いているのかなあと思っています。

最近は一定期間作家が滞在するレジデンスプログラムもはじめています。近くに一軒家を借りて2ヶ月間国内外の作家たちをそこに住まわせて、日本のアーティストたちと交流したり展覧会をやったりしています。そういうことをやっていると海外からも認識されるようになり、逆に日本のアーティストを海外に送り込んだりすることもあります。

石幡:Yに関してコメントをいただいいてもいいですか?

小川:そうですね。僕の場合は何をモチベーションにしているかというと、日本にはアートを通じてアーティストと一般の人がつながったりアーティスト同士が出会ったりする場所がなかなかない状況に対して、「それでは文化は育たないのでは」という強い想いがあり、そういった必要性みたいなもので突き動かされてここまできました。なので、どこまで本気でできるのかが大切だと思ってて、さっきのプレゼン(注:シンポジウム第一部の山本山田のプレゼン)を伺っていて、地域をつないでいくことがどれだけそこに必要性があるのか、大げさかもしれないけどそこに一生かける意味や、自分はこの場所を絶対に続けていくという強い意思が必要だと思います。

コミュニティをつくるとかコミュニティをつなぐというのは言葉で言うのは簡単ですけど、そこにどれだけ本気になれるかどうか。自分の人生をかけることができるかに、きっと場所の運営はかかってくると思います。システムをつくることも重要だけれども、中心の人たちが自分たちのこれがないとダメだという想いをどれだけつくれるかが、最終的に継続性につながるのかもしれないと感じました。

 

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