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としまアートステーションYシンポジウムレポート

 

それぞれのスペースの運営体制やコンセプトの違い

石幡:ありがとうございます。話の中でも言及されていましたが、それぞれの場所をどういうプロセスで見つけていったのか、さらに見つけたとはいえ、Yもそうですがいろいろ諸条件が難しかったりオーナーさんがおもしろがってくれるかどうかが重要だと思います。そのあたりをどうクリアされたのか、今どういう体制で運営されているのかなど、運営のはじまりから継続にかけての秘訣や苦労されたことなどあればお聞かせください。

宮﨑:2012年にハギエンナーレをやった後に、何となくカフェをやりたいと漠然と思ったんです。ハギエンナーレの成果もあってアートギャラリーの可能性もあると思い、アートプロデューサーの橋本誠さんに相談したら「Ongoingっていうのがあるよ」と言われ、調べたら自分がやりたい形に近かったので、とりあえずOngoingにアポ無しで行きましたね。

中﨑:いわゆる偵察だね(笑)

宮﨑:そうなんです(笑)。行ったら小川さんがお茶を出してくれて、これはもう顔がばれたらまずいってことで、「こういうのをやりたいんですけど、やってもいいですかね」って話しかけたんです。そしたら、各エリアに1個くらいこういうのがあってもいいよね、みたいな話をした記憶があります。たしかに、各エリアにアートセンターみたいな場所が1個くらいあっていいなと思うんです。

僕が何となく意識しているエリアは、町とか区の区域ではなく単純に徒歩圏や生活圏内のエリア。それぞれの場所でそれぞれの担い手が覚悟を持ってやれる場所があって、そういう場所がどんどん増えていったら、めちゃくちゃ豊かなことだなあと思っています。

想いとして、自分の拠点を設けたいことと、もうひとつ理由があります。建築をやっている立場からすると、文化活動はもともと美術をよりよい状態でみせるために美術館ができ、パフォーマンスをよりよい状態でみるために劇場ができたという順番だと思うんです。けれども、いつのまにか箱が前提になってしまい、劇場のためのパフォーマンスとか、美術館のための美術みたいに逆転してるのがおもしろくないなと感じます。もっと(アートが)生活に近い場所にあっていいと思うし、そういう場所が必要だという意識でやりはじめました。Yだけでなく、豊島区内でほかにやりたいっていう人が出てきたらいいと思うんですよね。質問って経営的なやつでしたっけ?

石幡:はい、経営やどういった経緯で運営しているのか、という辺をお話いただければ。

宮﨑:建物で一番大事なのはやっぱりオーナーさんだと思います。当初はめんどくさいから駐車場にしようとしてたんですが、実際に人がその場所を使いこなそうとしている場面に出会ってしまうと、それを無下に壊すよりも違ったイメージの方がわいてきて楽しくなってきちゃうんですよね。

とりあえずやってみるのは大事で、体裁を整えなくてもイベントはできると思うんです。一回やってみるとイメージが明確になってきて、話が進むと思います。僕も「ハギエンナーレ」をやったことはすごく意味があったし、そのあとにどうやって運営していくかを考えるようになりました。

うちの場合は延床160平米くらいあるんです。そうすると、たしかに好意で安く借りてるもののお小遣いでなんとかなる規模ではないので、ちゃんとお金を稼がないといけない。カフェは今24席で、基本的にカフェの売り上げを家賃や光熱費、人件費に充てながら運営できています。まだ2年目なので3年くらいが勝負だと思っていて、なんとか3年の壁を越えていければ一応運営実績として証明できるかなと思っています。今のところ、運営規模は社員やアルバイト含めて8人くらいでやりくりしています。彼らを養うためにも、人件費だけで毎月100万円くらいかかりますからね。売り上げは、カフェだけで月に300万円くらいはいいときは稼ぎますけど、飲食店は水もので季節とか天気とかで幅ができるので安心はできないですね。もちろん、売り上げがでたらきちんと従業員に還元しながら、楽しみながらやっています。

1年目は経営的になかなか厳しかったけど、2年目になって順調に経営できるような体制になってきたって感じですね。

石幡:すごいですね。

中﨑:カフェ先輩からどうですか。

小川:まず、なぜ吉祥寺かという話について。多くの人にはあまり馴染みのないことかもしれませんけど、中央線って吉祥寺から少し西に行くと家賃がだんだん安くなっていくんです。西に行けば行くほどアーティストたちが増えてきて自分のアトリエや倉庫を持つようになり、吉祥寺より東に行こうとすると交通費や時間の問題でなかなか足を運びづらい。また、吉祥寺から東は普通に企業に勤めてる人たちが多く住んでる。そういう人たちが西に来られる限界が吉祥寺ぐらいかなって。そうした理由から吉祥寺を選びました。

お金についてですが、アートセンターをつくる目標はあったけど、家がお金持ちでも企業のサポートがあるわけではないので、バイトをしたり博士課程までの奨学金のほとんどを使わずに貯めたりしながら完全に個人でお金を用意しました。物件は本当に運命的な出会いでした。1階が純喫茶で2階は住居だった建物がちょうど見つかって。1階と2階の入り口が別で、不動産屋的には1階のカフェなりお店をやる人が2階に住む想定だったんだと思います。

吉祥寺は、今では住みたいまちNo.1と言われているせいか、すべてが高いんです。そういった中で、自由にリノベーションできる物件ってほぼ無いんですよ。Ongoingの物件は築45年くらいの建物で、自分たちでリノベーションできる構造とわかったので、「こういうことやりたいんです。こんなに素晴らしくなります」ってビフォーアフターみたいな書類もつくって大家さんに交渉して家賃もちょっと下げてもらいました。その資料もCGが得意な友人につくってもらって、それを大家さんに持っていって「こんなにきれいになるならいいね」みたいな話になって。家賃に関しても文化的なことをやる貧乏青年をアピールして(笑)。けど、それでも家賃22万円もするんですよ(笑)。小さいけど吉祥寺だからこの値段だし、中をリノベーションするお金もないから、友人のアーティストたちに手伝ってもらいながら壁を壊して床をはがして、ギャラリー用の壁をつくって、1階と2階に穴を空けて入り口をまとめてひとつの空間にしたんです。

運営については、今はカフェの従業員が1人いますが、はじめはお金が無かったからカフェの仕込みもギャラリーの運営も全部自分でやってました。よくすぐにつぶれなかったなと思います(笑)。22万円の家賃とカフェの仕込みを考えると、運営するだけで1ヶ月に40万円は絶対に稼がないといけない。ということは1週間に10万円。

1週間に10万円を現代アートのスペースで稼ぐのは難しいので、さきほどの宮崎さんの月に300万円の売り上げというお話には驚愕です。Ongoingの7、8ヶ月分を1ヶ月で稼いでる計算ですよね。僕の場合はカフェと週末のイベント入場料とドリンク代の売り上げでギリギリでまわせていけるぐらいですから。

中﨑:リアルな金額の話が出て正直ビックリしています。僕の遊戯室は月に1万5千円くらいなんですよ。内緒ですよ(笑)。

有馬さんが出会った地主さんは、宮崎さんの話と同じで最初は駐車場にしようとしてたんです。自分の地元のしかもわりと中心市街地のところが駐車場になっていくのは、地主の人からするとリスクがなくてすぐ売りやすくて楽。でも、楽だからといってどんどん市街地が駐車場だらけになっていくのって、やっぱりつまらないと思っているんです。

なので、僕たちのようにいろんな人を呼ぶ場所にするっていう提案に対して「それなら安くするよ」って感じでスタートしたら、やっぱりその大家さんもちょこちょこ遊びに来るんですよ。普通の町中じゃ見かけない得体の知れないやつがけっこういろんなところから来る、でも、話してみたらおもしろくて、大家さんも楽しんでくれて徐々に家賃も下がっていって。「大変だろ、お前ら」みたいな(笑)。「駐車場も付けちゃう!」みたいな(笑)。

というやりとりを踏まえてなんですが、やらなくていい時間とやりたいときにほんとに時間とエネルギーを自分たちでかけてやるところがすごくおもしろい。時折自分のスタジオとして制作するときもあれば普通にオフィスとしても使ってるし、共有スペースもあるので知り合いが来たときに泊めたりもできる。

あとは普通に飲み会やイベントをするためのフロアがあるから十分に元がとれる。個人的にそこに「ある」のがおもしろくて、仕事と同時に遊び方としてのアプローチかな。助成金も取ろうとしたことがあるんだけど、結局誰も書き方が慣れてなくて、書類もほとんど落ちたので、うちも1回も行政からのお金をもらってないという意味ではインディペンデントですね。別にそれが悪いわけではないんだけどね。

石幡:行政のお金がないということは縛りがないことだし、自由なことできますしね。

中﨑:もちろん(行政のお金をもらうことに対して)良いことと悪いことの両方があると思いますけどね。

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